18歳選挙権施行5年!問い直される主権者教育のあり方
2021年は、新型コロナウイルスの感染とワクチン接種がせめぎ合いながら、約4年ぶりの衆議院総選挙を迎え、日本の課題を解決するためには何が必要なのか、そして、私たち国民一人ひとりは政治にどう向き合うのか、改めて問われた一年になりました。
私自身は、国・自治体・学校・青年会議所等の依頼を受け、引き続き多くの主権者教育の研究や実践に関わるとともに、withコロナだからこそ、オンラインを駆使し新たな主権者教育のモデルづくりにも携わることができました。
2022年は、4月より高等学校に導入される新科目「公共」や夏の参議院議員選挙等を踏まえ、主権者教育のあり方が問い直されるのではないでしょうか。
18歳選挙権が施行されて5年目の今年、重点的に取り組む主権者教育の3つのポイントをお伝えします。
新科目「公共」で主権者教育を「画一化&科目化」させない工夫を
2022年4月より、新科目「公共」が高等学校に導入されます。
「公共」は、従来の「現代社会」の廃止に伴い新設されたもので、「社会に参画する際に必要になる知識や現状を理解したうえで、実際の社会の課題と向き合い解決する力を身につけること」を目指すことが目的です。
特に「公共」においては、2015年6月に成立した改正公職選挙法の「選挙権年齢引き下げ(18歳選挙権)」に伴い、全国的に取り組まれている「主権者教育」が明確に位置付けられています。
すなわち「主権者教育の必修化」という意味では、新科目「公共」の導入は画期的なものであり、主権者教育という名称がまだなかった10年以上前から取り組んできた私自身にとっても、まさに隔世の感があります。
ただ、「公共」の導入により主権者教育は新たな課題を抱えることになると考えています。
その一つは「主権者教育を画一化させない」ことです。
「公共」の授業には、検定に合格した「教科書」が使用されるわけですが、主権者教育で取り上げられる政策課題は、例えば地域それぞれにおいても異なるので、画一化しないよう多様な取り組みが求められるのも事実です。
そのため、新科目「公共」ではあくまでも「主権者教育の考え方(フレーム)」を身に付けることが大切であり、取り上げるべき内容や指導方法は先生方の工夫が一層大切になります。
もう一つは「主権者教育を科目化させない」ことです。
これは前述の「主権者教育の必修化」と併せると一見矛盾がありますが、私が懸念しているのは「主権者教育は公共の教員が教えればいい」という認識が広まることです。
後述する神奈川県教育委員会の座長としても、私が長年訴え、自ら実践しているのは「科目に囚われない多様な主権者教育の充実」です。
教員の誰もが主権者であり、様々な科目や特別活動においても主権者教育は実施できることを、神奈川県教育委員会「小・中学校における政治的教養を育む教育」では事例とともに明示しています。
他にも、2017年度に依頼を受けた福井県教育委員会では、公民科担当以外の教員に向けた主権者教育の授業について講演と実践をさせていただきました。
この「主権者教育の画一化&科目化」という新科目「公共」を巡る2つの課題について、様々な先生や生徒とお話ししながら考えていきたいと思います。
神奈川県教委の座長7年目として義務教育段階の授業モデルを
神奈川県教育委員会では、全国に先駆けて主権者教育(政治的教養を育む教育)を小・中学校から導入しようと、2016年度に検討会議で指導資料を作成、2017年度から5年連続で実践協力校による授業を推進しています。
最初の検討会議から6年連続で座長を務めており、県内の小・中学校において、現場の教員や校長、市町村教育委員会等の指導主事とともに、様々な科目や特別活動(社会科・総合的な学習の時間・国語・道徳・児童会/生徒会活動等)で実践と研究に取り組んできました。
2021年度は、特別支援教育を重点的に、主権者教育(政治的教養を育む教育)を展開させていただき、新型コロナウイルス感染対策を万全に、実践協力校の皆様は様々な工夫を凝らして、各校ならではの「政治的教養を育む教育」の実践に取り組んでいただきました。
今年も実践も含めた過去5年分の指導事例集は春に発行予定で、神奈川県のみならず全国各地の小中学校でも是非参考にしていただければと願っています。
神奈川県は主権者教育の先進自治体であり、私自身は高等学校における主権者教育が位置づけられる「シチズンシップ教育」を推進する会議の座長も務めた(2018年~2020年)ことから、その経験を踏まえて、小学校から中学校、高等学校までの段階的な主権者教育モデルを提示したいと思います。
withコロナ、参院選を前に「GIGA×主権者教育」の充実を
2022年は前述のとおり、7月に参議院議員選挙が実施予定です。また、地方の観点では、来年4月の統一地方選挙に向けた選挙啓発にも取り組んでいく必要があります。
昨年の衆議院総選挙では、低下傾向にあった18歳・19歳の投票率が復調しましたが、とは言え「 20代も含めた、より多くの若者の政治参加をどう促すか」は引き続き課題となっています。
従来依頼をお引き受けしました、全国の青年会議所(JC)や選挙管理委員会による公開講座等の充実にも一層貢献したいと考えています。
特にJCによる事業のモデルになるのが、2021年度の愛知県新城JCの主権者教育事業です。
学校現場で児童・生徒一人一人がパソコンやタブレットといったICT端末を活用できるようにする「GIGAスクール構想」と連動させて、4年後の市長選挙を題材にした主権者教育について複数の学校をオンラインで繋いで同時に実施するというものでした。
この実践は、全国各地のJCが地域の学校と連携し新城市同様に実施することができますので、参院選や統一地方選挙等をテーマに、ぜひご一緒に取り組みたいと思っています。
加えて、これまであまり注目されなかった「専門学校における主権者教育」にも一層力を入れたいと考えています。
東京都専修学校各種学校協会でのオンライン講演を機に、専門学校生に対する主権者教育のモデルづくりにも関心を持っており、全国の関連団体にもご協力する予定です。
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