なぜ「主権者教育」は小・中学生から必要なのか?

横浜市長選挙では中学生による立候補者インタビューが話題に!

2021年8月22日の横浜市長選挙は、過去最多の8名が立候補したことで激戦となり、市選挙管理員会によると、投票率は前回(2017年)に比べ11.84ポイント上がり49.05%でした。

この横浜市長選挙では、同市在住の中学1年生が夏休みの自由研究として立候補者全員にインタビューを行ったことが話題になりました。

告示日の8日午前。私鉄の駅のタクシー乗り場の柱の陰で、横浜市青葉区の中学1年、北原たまきさん(12)はある候補者にインタビューしていた。(中略)たまきさんが市長選の候補者にインタビューをはじめたきっかけは、地域情報紙の発行に携わる父親、健祐(けんすけ)さん(49)の提案だった。夏休みの自由研究のテーマは「横浜の未来」。たまきさんは4月にみなとみらい21地区に開業したロープウェーについて調べるつもりだったが、健祐さんは「中学生は選挙権はないけれど、議論になっている学校給食選択制の当事者でもある。選挙を身近に感じられるように候補者にインタビューしてみたら」。

朝日新聞2021年8月15日付

実際に、このインタビューの詳細が掲載されたブログを拝見しましたが、候補者一人一人の人柄や政策、横浜市長を目指す姿勢等を丁寧に聞かれているだけでなく、取り組んだ北原さんの感想(所感)も付記されていて、内容が大変濃く充実した「自由研究」になっています。

私は、5年前から神奈川県教育委員会にて「小・中学校における政治的教養を育む教育」の座長を務めていますが、この横浜市民の中学生のチャレンジに感激しましたし、同時にご両親の理解とサポートにも深く敬意を表します。

このインタビューはまさに主権者教育そのものであり、しかも取り組んだご本人だけでなく、記事を読んだ多くの(若者を含めた)人々にとっても主権者教育になっている点が素晴らしいわけですが、学校での授業ではなく「夏休み中の自由研究というかたちで家庭の協力があればこそ実現した活動」という意味で、家庭における主権者教育のモデルとも言えるからです。

主権者教育は、選挙の時だけではなく、日常的かつ継続的に地道に取り組むことの大切さを、これまでも訴えてきていますが、このインタビューのように、実際の選挙を前にして選挙権の有無にかかわらず「当事者」として関心をもち活動することは大変重要であることもまた事実です。

その観点で、私も告示日に主権者教育プログラム「よこはまマイ争点」を公開したのですが、多くの方がシェアをしたり活用して下さったと聞いており、有り難く思います。

小・中学生から主権者教育に取り組む意義と内容は?

ところで、なぜ主権者教育は高校生からではなく小・中学生という義務教育段階から取り組む必要があるのでしょうか

このブログでも度々お伝えしてきましたが、この観点についてメディアからインタビューを受けたことがありました。

毎日新聞2019年4月2日付朝刊(神奈川版)で、当時は18歳選挙権が導入されて初めての統一地方選挙を迎えていたこともあり、主権者教育について多様な角度からお話しました。

このインタビューは、県教委の座長として取り組んでいる「小・中学校における政治的教養を育む教育」を数年にわたり取材して下さった記者の方が担当されたので、丁寧に書いていただきました。

是非多くの方にお読みいただきたいので、文字起こしで一部ご紹介したいと思います。

―リード文
 授業を通じて政治参加の意義やプロセスを学ぶ「主権者教育」について、県教委では全国に先駆けて小中学校向けの指導事例集を作成するなどの取り組みを実施してきた。(中略)県教委の「小・中学校における政治的教養を育む教育」実践協力校連絡会座長で慶応大SFC研究所上席所員の西野偉彦さんに狙いを聞いた。

―神奈川県の主権者教育の近年の歩みは。
 神奈川県では2017年、義務教育段階から「政治的教養を育む教育」を導入しようと、都道府県で初めて教員向けの指導資料を作成した。街や暮らしの課題から政治の仕組みまで段階的に学びを進めるもので、学校で行われてきた学習に政治的教養の視点を盛り込んでいくイメージだ。県内の小中学校を「実践協力校」と定め、進めている。児童・生徒が社会に関心を持ち参画できるように、地道に取り組みたい。

―政治的中立性をどう確保するか。
 指導資料の作成過程では、中立性を確保するポイントを定めた。主権者教育の先進国といわれるドイツやスウェーデンなどを参考に、教員に対して「~してはいけない」など、萎縮しかねない表現は使わず、シンプルな表現を心がけた。いろいろな見方や考え方があることを踏まえ、さまざまな考えを提示した指導が重要だ。
 
―県内の実践協力校の取り組みの成果は。
 主権者教育は社会科のイメージがあるが、国語などの授業で試みた学校もあった。総合的な学習の時間も含め、多様な取り組みができつつある。今後は、理数系や音楽、体育などの科目でも展開できればいい。民主主義社会の土台を支える教育であり、一時的なブームなどに流されずにやっていく必要がある。

―選挙権年齢が18歳に引き下げられて初めての統一地方選だ。
 地方政治は身近なテーマのはずだが、若者は国政の方が関心を持ちやすい。メディアの報道量も関係しているが、暮らしに関わる地方選挙への無関心は大きな課題だ。選挙権年齢の引き下げに伴い、高校3年生から主権者教育を始める風潮もあるが、それでは遅い。海外をみると、ドイツでは小学校で議員にインタビューする授業もある。日本でも、地方議員がどんな仕事をしているのか、リアリティをもって学ぶ教育も必要だ。

―議員のなり手不足への方策は。
 国や地方の課題に対して、まずは主権者として関心を持ち政治参加する。その上で、議員のなり手を考える視点も大切だ。投票したい候補者がいないなら、自ら議員を目指すこともできる。主権者教育は選挙に行くためだけではなく、利害調整をして合意形成を図るトレーニングでもある。主権者教育に取り組むことで、将来的に議員になろうとする人も出てくるのではないか。

コメントを残す

メールアドレスが公開されることはありません。 * が付いている欄は必須項目です