検討会議の座長として目指したいビジョンとは
10月28日(金)、神奈川県教育委員会が設置した「小・中学校における政治的教養を育む教育」検討会議(第2回)が開催されました。(写真は神奈川新聞に掲載された第1回検討会議の様子)
この検討会議は、「選挙権年齢が18歳に引き下げられたことを受け、小・中学校段階における政治的教養を育む教育の在り方について検討し、各学校における指導の参考となる資料を作成」(県HPより)するものです。
学識経験者、小学校長会代表、中学校長会代表、市町村教育委員会代表、教育事務所長会代表、中等教育学校長代表、県選挙管理委員会関係者 の7名が委員で、検討会議の他に作業部会も設置されています。
5月にもお伝えしましたが、私は県教育委員会の依頼を受け、学識経験者の立場で委員を委嘱されており、検討会議の座長に就任しています。
検討会議は原則公開なので、報道や傍聴もされています。具体的にどんなことを協議しているのかについては、神奈川県の公式ホームページに掲載される議事録をご覧下さい。
検討会議の第1回(5月27日)の議事録は既に公開されていますので、その中から検討会議での協議にあたり留意したい点についての私の考えを抜粋してご紹介します。
【西野座長】
(前略)私の方から皆様に投げかけと申しますか、御説明いただいたことに関しまして、ぜひこれから検討協議の中で議題にあげていきたい、あるいは作業部会で動いていきたい点について、3点ほど申し上げたいと思います。
1点目は、政治的な中立性の確保です。今回のこのテーマ、「政治的教養を育む教育」ということで先ほど事務局から説明がありましたが、よりよい社会を作っていくためにしたい、具体的な社会参画を育んでいくためのとらえ方な訳ですけども、高校でも現在、副教材が提示をされたように政治的な中立性を図りながらもどのように指導を行っていくのだろうか、授業を行っていくのだろうか、ここがひとつの大きな観点かと思います。今、委員の皆様方のお手元に配布されています副教材の中の、「活用のための指導資料」をご覧ください。
その中の20ページに、実践的な教育活動を行うに当たっての留意点、22ページまでですね。
これはあくまでも、高等学校における政治的中立性を担保しながら、改正教育基本法第14条第2項で禁止されている特定の政党を支持し、又はこれに反対するための政治教育その他政治的活動をしてはならないようにする留意点というものがここに述べられております。
高等学校における、政治的中立性の担保のあり方と、小学校や中学校における政治的教養の政治的中立性が共通しているところ、あるいはまた違う観点もあるかもしれません。
そういったことで政治的中立性につきましてどのように確保していくのか、ということは高校の副教材や海外の事例も参考にしながら検討していきたいと考えています。
例えば、海外の事例として、そのうちの1つをご紹介しますと、ドイツではボイテルスバッハ・コンセンサスという原則がございます。1976年に策定されたもので3つの項目があります。
1つ目は教員は生徒が期待する答えをもって、生徒の考え方を圧倒してはいけない、ということ。
2つ目は学問と政治の世界で論争があることについては、授業の中でも論争があるということを示しながら教えなくてはならないということ。
3つ目は先生の関心ではなくて生徒の関心に基づいた形で、政治参加や政治的な関心、社会の問題を解決する力を養成しなくてはいけないということ。以上の3つが原則として定められています。
あくまでも今回は神奈川県での取組の議論となりますけれども、この政治的中立性をしっかり担保して、現場の先生方にとって政治的教養を育む教育が安心して小学校でも中学校でも行われるためにはどうすればいいか、ぜひ議論、協議をしていただければと思います。
2点目は、この政治的教養を育む教育、国家および社会を形成者として必要とされる資質を養う教育をした後にどのような社会を目指していくのかというビジョンです。あるいはこの教育を通じて、身に付けられたかというアウトカムをどのようにして測るのかという問題です。
この問題については、政治的教養を育む教育、国が今進めている主権者教育も、そしてまた神奈川県が平成23年度から始めているシチズンシップ教育に関しても同じような議論が行われていたかと考えます。
この検討会議では、政治的教養を育む教育を行うことによって、どのような社会を作っていきたいのかというビジョンを提示しつつ、政治的教養を育む教育をどのように身に付けたのかということを単に投票率の高低で測るのではない指標でどのようにして測っていくのか、これは答えが出ないかもしれませんが、議論をさせて頂ければと思います。
そして3点目は指導資料の作成を進めていくにあたり、ぜひ体系化と申しますか、小学校から中学校における政治的教養を育む教育の指導の流れに加えて、高校において国が進めている主権者教育や、神奈川県で既に取り組んでいるシチズンシップ教育にどのようにつなげていくのか、という流れの体系化も議論して頂きたいと考えています。
このあと、小・中学校における指導のあり方等について、また指導資料の作成について事務局から連絡、説明があるかと思いますけれども、選挙権年齢が18歳以上に引き下がったから、高校生だけに主権者教育を行うのではなく、小学校から中学校、高校、ひいてはもちろん大学、社会に出た後も見据えて、どのようにして「政治的教養を育む教育」というものを進めていくのか。もちろんここで議論できるのは小・中学校ですけれども、その体系化のモデルケースを示すことが出来れば、国もこの点までは着手が出来ていないと考えておりますので、他の自治体も含めて、ひとつのモデルケースを示すことができればと考えております。(後略)
義務教育レベルの主権者教育を「神奈川モデル」で提示したい
「18歳選挙権」の実現を受けて、高校を中心に、全国的に主権者教育の取り組みが盛んになっています。
神奈川県は、国に先駆けて、平成23年度から「シチズンシップ教育」の一環として、全ての県立高校で「政治参加教育」を導入し、模擬投票等を実施してきました。
その流れを踏まえて、今後は小学校・中学校という義務教育段階からも、主権者教育のあり方を考えることとなり、再び国に先駆ける施策の立案と実施に取り掛かったわけです。
そうした先駆的な検討会議で座長をお引き受けしたのは、まさに気が引き締まる思いです。「主権者教育に取り組んできたこれまでの経験をフル活用して取り組みたい」-上記の発言にはその決意を込めました。
とは言え、自身が知っている主権者教育に関する海外の事例や持論にこだわり、学校現場と乖離しないように重々気をつけなければなりません。
検討会議や作業部会をはじめ、現場で教鞭を執っている先生方の意見に十分に耳を傾けながら、「小・中学校における政治的教養を育む教育」の‟神奈川モデル”を作っていきたいと思っています。
第二回の審議結果(議事録)がアップされましたらまたご案内いたします。
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