座長8年目!神奈川県「小・中学校の主権者教育」指導事例集が公表

義務教育段階から「政治的教養」を身に付ける実践とは

2024年4月2日、神奈川県教育委員会は「小・中学校における政治的教養を育む教育」について、「平成29年度~令和5年度 実践協力校 指導事例集」を発行しました。

私は、神奈川県教育委員会の依頼を受け、8年前から「小・中学校における政治的教養を育む教育」に関わる会議の座長(検討会議及び実践協力校連絡会)を務めています。

このHPでも度々ご紹介しているように、2016年度に神奈川県教育委員会は全国に先駆けて「小・中学校における政治的教養を育む教育」検討会議が設置され、義務教育段階での主権者教育で身に付けたい力について検討を行いました。

初めて座長をお引き受けした検討会議において、神奈川県の「政治的教養」について、以下のように定義しました。

「政治的教養」
政治そのものの仕組みや政策について学ぶだけではなく、児童・生徒の発達の段階に応じて、自分の身の周りや住んでいるまち等の身近な問題から現実社会における社会的な諸問題まで、それらを自分のこととしてとらえ、話し合い、相手を尊重し、様々な意見を自分の中で考え合わせながら、合意形成のかたちを想定し、意思を決定するに至る過程を大切にして、社会参画につなげていくこと。

18歳選挙権の導入以降、「政治的教養を育む教育」というと「模擬投票」を思い浮かべる人が多いかも知れません。

たしかに、選挙に投票する過程やその意義について体験的に学ぶことも大切ですが、神奈川県では、「政治そのものの仕組みや政策について学ぶだけではなく」として、「自分の身の周りや住んでいるまち等の身近な問題から現実社会における社会的な諸問題まで」と広くとらえることとしました。

そして、「政治的教養を育む教育」を実践するうえで大切な3つのポイントとして、

①主に小学校の高学年や中学校で取り上げる現実社会における社会的な諸問題についても、様々な議論や解決の方策があることをふまえたうえで、児童・生徒が現状や事 実をしっかりと認識し、「よりよい社会」とは何かを自分なりに追究していくこと

②新たな知識、技能や学習方法を求めていくだけではなく、今まで各学校において積 み重ねてきた学習に、児童・生徒の発達の段階に応じて、学習していく過程の中で 「政治的教養を育む教育」の身に付けさせたい力の視点を加えていくこと

③小学校・中学校・高等学校の12年間を見通し、発達の段階に応じた指導を系統的に行っていくこと

を掲げています。

単に授業例を考えるだけではなく、指導の根幹をなす「政治的教養」をしっかりと定義した上で、小・中学校における指導の際にポイントを整理することを大切にしています。

現場の先生方が負担に感じないように、これまで各学校で積み重ねてきた学習を活かす授業のあり方を明記した「指導資料」を作成し、県内の小・中学校に配布しました。

2017年度には「小・中学校における政治的教養を育む教育」実践協力校連絡会が設置され、引き続き座長を務めることとなりました。

毎年度、指導資料を参考に、県内の公立小学校・中学校が実践協力校として指定され、2023年度まで7年連続で本格的な授業実践(計25校)が行われてきました。

この「指導事例集」では、7年分の実践協力校における「小・中学校における政治的教養を育む教育」の取り組みが掲載されています。

2023年度は「学校と地域の連携」「政治家にインタビュー」を展開

この事例集では、実践協力校の学校名も公表されており、小・中学校における主権者教育に関する全国初の具体的な指導事例集として毎年更新しています。

過去7年間の実践協力校は下記の通りです。

【2023年度】
・横須賀市立大塚台小学校:5年総合的な学習の時間「学校と地域の連携」
・逗子市立沼間中学校:3年社会科[公民的分野]「政治家にインタビュー」
※2023年度は年間を通じて実施

【2022年度】
・清川村立緑小学校:6年総合的な学習の時間「子ども議会」
・横須賀市立長沢中学校:全学年特別活動「校則見直し」
※2022年度は年間を通じて実施

【2021年度】
・小田原市立下府小学校:「冬のお楽しみ会」
・綾瀬市立綾北小学校:「ありがとうキャンペーン」
・藤沢市立湘南台中学校:「後期の委員会活動と係を決める」
・秦野市立大根中学校:「SDGsについて考え行動しよう」
・横須賀市立常葉中学校:「これからの経済と社会」

【2020年度】
・茅ケ崎市立緑が浜小学校:6年総合的な時間の学習「地球環境のために」
・平塚市立勝原小学校:6年国語科「町の未来をえがこう」
・厚木市立相川中学校:1年特別活動「生徒会活動」
・南足柄市立南足柄中学校:1,2年特別活動「学級活動」

【2019年度】
・小田原市立早川小学校:4年特別の教科  道徳「友情・信頼」
・大和市立下福田小学校:5年総合的な学習の時間「環境について考えよう」
・伊勢原市立伊勢原中学校:1年社会科[地理的分野]「ヨーロッパ州」
・鎌倉市立大船中学校:1年社会科[地理的分野]「アフリカ州」

【2018年度】
・秦野市立大根小学校:4年総合的な学習の時間「制服か私服か」
・藤沢市立御所見小学校:6年総合的な学習の時間「学校改革制作委員会」
・小田原市立千代中学校:2年社会科[地理的分野]「日本の資源エネルギー」
・清川村立緑中学校:3年社会科[公民的分野]「地方自治と私たち」

【2017年度】
・海老名市立柏ケ谷小学校:3年国語科「考えを深めよう」
・中井町立中村小学校:4年社会科「開発にたずさわる人々」
・三浦市立三崎中学校:2年社会科[地理的分野]「身近な地域の調査」
・平塚市立金目中学校:3年社会科[公民的分野]「地方自治と住民の参加」

このように、様々な地域・学校・学年で実施しており、社会科・公民科だけでなく総合的な学習の時間・国語科・特別の教科 道徳・特別活動 といった多様な実践を試みています。

各年度の指導事例集は神奈川県教育委員会のHPよりダウンロードできます。

神奈川県内のみならず、全国の小・中学校(もちろん主権者教育に取り組んでいる高等学校も)の先生、教育委員会、主権者教育を推進している研究者・NPO等の教育関係者の方々に、是非ご覧いただければ幸いです。

事例集の作成にあたっては、事務局を務める神奈川県教育委員会の子ども教育支援課はもとより、実践協力校として公開授業に取り組んで下さった現場の先生方や支援された各市町村の教育委員会、県の教育事務所等の方々の多大なお力添えをいただきました。

特に、2023年度は実践協力校の先生方と協働し、学校全体で一年を通じてどのように児童・生徒が政治的教養を身に付けていくのか、という観点を模索いただきました。

この場を借りて、関係者の皆様に心より御礼を申し上げます。

神奈川県では、2024年度も「小・中学校における政治的教養を育む教育」実践協力校連絡会を継続し、8年連続で新たな実践協力校のご協力のもと充実していこうとしており、私自身も最初から務める座長として義務教育段階からの主権者教育の展開を一層推進していきます。

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