コロナ禍で模索した「義務教育における政治的教養」
2021年3月31日、神奈川県教育委員会は「小・中学校における政治的教養を育む教育」について、「平成29年度~令和2年度 実践協力校 指導事例集」を発行しました。
これまでもご紹介していますが、神奈川県教育委員会の依頼を受け、5年前から「小・中学校における政治的教養を育む教育」に関わる会議の座長(検討会議及び実践協力校連絡会)を務めています。
2016年度には「小・中学校における政治的教養を育む教育」検討会議が設置され、小・中学校段階において身に付けたい力について検討を行いました。
神奈川県では「政治的教養」について、以下のように定義しました。
「政治的教養」
政治そのものの仕組みや政策について学ぶだけではなく、児童・生徒の発達の段階に応じて、自分の身の周りや住んでいるまち等の身近な問題から現実社会における社会的な諸問題まで、それらを自分のこととしてとらえ、話し合い、相手を尊重し、様々な意見を自分の中で考え合わせながら、合意形成のかたちを想定し、意思を決定するに至る過程を大切にして、社会参画につなげていくこと。
18歳選挙権の導入以降、「政治的教養を育む教育」というと「模擬投票」を思い浮かべる人が多いかも知れません。
たしかに、選挙に投票する過程やその意義について体験的に学ぶことも大切ですが、神奈川県では、単に「政治そのものの仕組みや政策について学ぶだけではなく」として、「自分の身の周りや住んでいるまち等の身近な問題から現実社会における社会的な諸問題まで」と広くとらえることとしました。
そして、「政治的教養を育む教育」を実践するうえで大切な3つのポイントとして、
①主に小学校の高学年や中学校で取り上げる現実社会における社会的な諸問題についても、様々な議論や解決の方策があることをふまえたうえで、児童・生徒が現状や事 実をしっかりと認識し、「よりよい社会」とは何かを自分なりに追究していくこと
②新たな知識、技能や学習方法を求めていくだけではなく、今まで各学校において積 み重ねてきた学習に、児童・生徒の発達の段階に応じて、学習していく過程の中で 「政治的教養を育む教育」の身に付けさせたい力の視点を加えていくこと
③小学校・中学校・高等学校の12年間を見通し、発達の段階に応じた指導を系統的に行っていくこと
を掲げています。
単に授業例を考えるだけではなく、指導の根幹をなす「政治的教養」をしっかりと定義した上で、小・中学校における指導の際にポイントを整理することを大切にしています。
このように、現場の先生方にとって負担に感じないように、これまで各学校で積み重ねてきた学習を活かす授業のあり方を明記した「指導資料」を作成し、県内の小・中学校に配布しました。
2017年度には「小・中学校における政治的教養を育む教育」実践協力校連絡会が設置。
毎年度、指導資料を参考に、県内の公立小学校2校・中学校2校の計4校が実践協力校として指定され、2020年度まで4年連続で本格的な授業実践(計16校)が行われてきました。
公表された「指導事例集」では、4年分の実践協力校における「小・中学校における政治的教養を育む教育」の取り組みが掲載されており、
単元計画・本時の様子・研究協議・授業実践をもとにした指導事例
の4つが、授業で参考・活用できるように書かれています。
実践協力校の学校名も公表されており、小・中学校における主権者教育に関して、全国初の具体的な指導事例集となっています。
これまでの実践協力校と単元は次の通りです。
【2020年度】
・茅ケ崎市立緑が浜小:6年総合的な時間の学習「地球環境のために」
・平塚市立勝原小:6年国語科「町の未来をえがこう」
・厚木市立相川中:1年特別活動「生徒会活動」
・南足柄市立南足柄中:1,2年特別活動「学級活動」
【2019年度】
・小田原市立早川小:4年特別の教科 道徳「友情・信頼」
・大和市立下福田小:5年総合的な学習の時間「環境について考えよう」
・伊勢原市立伊勢原中:1年社会科[地理的分野]「ヨーロッパ州」
・鎌倉市立大船中:1年社会科[地理的分野]「アフリカ州」
【2018年度】
・秦野市立大根小:4年総合的な学習の時間「制服か私服か」
・藤沢市立御所見小:6年総合的な学習の時間「学校改革制作委員会」
・小田原市立千代中:2年社会科[地理的分野]「日本の資源・エネルギー」
・清川村立緑中:3年社会科[公民的分野]「地方自治と私たち」
【2017年度】
・海老名市立柏ケ谷小:3年国語科「考えを深めよう」
・中井町立中村小:4年社会科「開発にたずさわる人々」
・三浦市立三崎中:2年社会科[地理的分野]「身近な地域の調査」
・平塚市立金目中:3年社会科[公民的分野]「地方自治と住民の参加」
このように、様々な学校・学年で実施しており、社会科・公民科だけでなく、総合的な学習の時間・国語科・特別の教科 道徳・特別活動 といった多様な実践を試みています。
指導事例集は神奈川県教育委員会のホームページからダウンロードできます。
神奈川県内のみならず、全国各地の小・中学校の先生、教育委員会、主権者教育を推進している研究者・NPO等の教育関係者の方々に、是非ご覧いただければ幸いです。
この事例集の作成にあたっては、実践協力校として公開授業に取り組んで下さった現場の先生方や支援された各市町村の教育委員会・教育事務所等の方々の多大なお力添えをいただきました。
特に、2020年度は新型コロナウイルスの感染拡大により、休校措置が取られた中で、実践協力校の先生方の熱意と工夫により、このような状況だからこそ、児童・生徒が身に付けるべき政治的教養とは何か、一緒に模索していただきました。
この場を借りて、関係者の皆様に心より御礼を申し上げます。
神奈川県では、2021年度も「小・中学校における政治的教養を育む教育」実践協力校連絡会を継続し、5年連続で新たな実践協力校のご協力のもと充実していこうとしており、私自身も6年目の座長として、義務教育段階からの主権者教育の導入を一層推進していきます。
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