18歳選挙権&主権者教育の依頼をいただいた皆様に感謝
32歳になったことを機に、この一年間の振り返りをしつつ、抱負を述べたいと思います。
今年ほど主権者教育について社会的な注目・関心が高まったことはありません。
その理由は「18歳選挙権」の導入です。
2015年6月に公職選挙法改正案が参議院本会議で可決され、今年6月から施行されました。
国政選挙として初めて「18歳選挙権」が適用された今年7月の参議院選挙に向けて、新しく有権者になる高校3年生を中心に、「主権者教育」の充実が急ピッチで進みました。
文部科学省・総務省が作成した「副教材」が配布されただけでなく、高校生を対象にした主権者教育のセミナー等が各地で開催されました。
「18歳選挙権ブーム」の到来で、私にも様々な方面から依頼が相次ぎ、多忙を極めることとなりました。
学校現場での授業・講演、自治体の主権者教育に関する政策立案、シンポジウム等での研究発表、メディアによる取材…
その詳細については、このサイトでもご紹介してきましたが、これまでお声がけいただいた皆様に、心から御礼を申し上げます。本当にありがとうございます!
今回は、その「現場・政策・研究・メディア」の4つの視座から、主権者教育について述べたいと思います。
①現場では「生徒会予算の分配」&「新プログラム」開発を
公立・私立にかかわらず、多くの高校から主権者教育に関する授業実践や講演会を依頼いただきました。
特に、生徒会予算を部活に分配するプロセスをテーマにした主権者教育プログラム「社会的意思決定学習」は、先生方や生徒の皆さんから広く共感をいただき、各地で実施することとなりました。
これは、2015年度に慶應義塾大学大学院に在籍している際、指導教員だった鈴木寛教授(文部科学大臣補佐官)のアドバイスをいただきつつ考案したものです。
どの学校の先生方からも「プログラムとしての完成度は高い」と好評をいただいていますが、授業進行にあたっての改善、特に私がゲスト講師として伺わずに、現場の先生方だけで実施できる工夫をもっと凝らしたい(もちろん現段階でも可能)と思っています。
「現地現場」を大事にする視点は、出身の松下政経塾を設立した故・松下幸之助氏の教えです。
後述の「②政策」にも関わる機会が増えてきたことで、一層「政策」と「現場」が乖離しないように、現場の先生や生徒の皆さんと十分なコミュニケーションを取る姿勢を堅持しています。
さらに、この「社会的意思決定学習」のみならず、新たな主権者教育プログラムの開発にも携わります。
神奈川県立湘南台高校での視察をヒントにして、今年7月の参院選直前に静岡県立韮山高校で実施してみた「マイ争点」プログラム(生徒自身の関心に沿って、選挙の争点について考えるもの)など、更なる授業開発にもチャレンジしたいと考えています。
②政策では「神奈川県の小・中学校」を全国のモデルケースに
この一年は、主権者教育に関する政策立案に関わるという新たな挑戦をしています。
折に触れてご紹介してきましたように、今年5月から神奈川県教育委員会が設置した「小・中学校における政治的教養を育む教育」検討会議の座長に就任しました。
「選挙権年齢が18歳に引き下げられたことを受け、小・中学校段階における政治的教養を育む教育の在り方について検討し、各学校における指導の参考となる資料を作成する」(神奈川県教育委員会ホームページより)
2011年度から「政治参加教育」(シチズンシップ教育の一環)を県立の高等学校に導入するなど、神奈川県は主権者教育の政策分野をリードしてきた自治体です。
今回は、義務教育段階にまで視点を広げて、「小・中学校における指導資料の作成」を目指しており、国や都道府県に先駆ける新たな教育政策として、注目が集まっています。
私は座長として、検討会議や作業部会を構成する方々との丁寧な協議を経て、全国のモデルケースとなる指導資料を作り上げたいと決意を新たにしています。
同時に、この経験を活かして、機会と要請があれば、国や他の自治体における主権者教育に関する政策立案にも携わりたいと考えています。
③研究では「義務教育」「19歳」「オトナ」に着目した論文を
今年は、主権者教育の研究者として、東京大学で開催した「主権者教育としての新しい生徒会シンポジウム」(9月)、慶應義塾大学湘南藤沢学会での研究発表(11月)等にも取り組みました。
いずれも、私が高校で取り組んできた「社会的意思決定学習」をテーマにしたもので、参加者の方々からは「もっと深く聞きたい」という声を沢山いただきました。
ただ、高校における主権者教育の研究は多く見られる一方で、「義務教育」「19歳」「オトナ」といった観点から主権者教育に着眼した研究や論文は、まだまだ数が少ないと考えています。
「小・中学校から段階的にどのような主権者教育を実施すればよいのか」
「18歳に比べると19歳の投票率が低い中で、どのような対策を考えればよいのか」
「20歳以上の大多数の有権者に対する主権者教育はどうすればいいのか」
こうしたテーマを掲げて、神奈川県での検討会議、大学での講義、市民向けのオープン講座等を通じて、新たな角度からの主権者教育の研究を推進し、論文執筆に取り組んでいきたいと思っています。
④メディアでは18歳選挙権を「ブーム」で終わらせない発信を
この一年間は、40回を超えるほどのメディアに取材されました。
新聞では読売・朝日・毎日の三大紙にインタビューが掲載され、テレビではスタジオ生出演やVTRで、雑誌やウェブメディアからは寄稿依頼が次々と…途中からカウントし切れませんでした。
ただ、気になるのは、18歳選挙権に関する報道が夏の参議院選挙を境に激減していることです。
その中で、読売新聞(9/5付)や朝日新聞(10/31付)のインタビューは、参議院選挙後に依頼をいただき、時間を掛けて取材していただきました。
両紙とも、担当の記者の方が、私の「18歳選挙権をブームに終わらせてはいけない。むしろこれからが重要」という視点に深く共感していただいたことが印象的でした。
2017年には衆議院解散が行われる可能性もあり、18歳選挙権としては「初の総選挙」として再び注目されることも考えられますが、報道や情報発信が「一過性」にならないように気を付けたいと思います。
今後もメディアに協力し、主権者教育を粘り強く取り組むことの大切さを社会に訴えていきます。
主権者教育に取り組む生徒や先生の「裏方」として支え続けたい
以上のように、「現場・政策・研究・メディア」のそれぞれの観点から、この一年で関わってきた様々な活動について振り返るとともに、これからの抱負を述べました。
大事なことは、主権者教育に取り組む、その主役は生徒や先生であって、自分自身はそれを支える「裏方」であり、「縁の下の力持ち」であるという姿勢です。
主権者教育は、民主主義社会を形成するうえで欠かせないものであり、地道で弛まない努力と改善が求められる分野だと思っています。
このウェブサイトの「主権者教育とは?」にも書きましたが、私が主権者教育に取り組んできた10年間は決して順調とは限りませんでした。
現実の政治を扱う授業は、国内の学校現場では敬遠される傾向にあること。
若者の政治参加が社会的な話題になるのは選挙の時ばかりで、大切だと分かっていても日常的に関心が集まるテーマではないこと。
政治への失望感が高まれば高まるほど、「どうせ政治に参加しても変わらないのだから、主権者教育なんかやる必要はない」という“ニヒリズム”が蔓延すること。
18歳選挙権が実現したことで、こうした「壁」は以前に比べると乗り越えやすくなっているかも知れません。
しかし、たとえ主権者教育に対する社会的な注目、まさに「スポットライト」が当てられなくなっても、私は主権者教育を「縁の下」で支え続けていきます。
今後とも宜しくお願い致します!
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