いよいよ「18歳選挙権」!どんな主権者教育が必要なのか?

18歳選挙権になった!でも10代は投票に行くの?

国会議事堂

2015年6月、参議院本会議で、選挙権年齢を現行の「20歳以上」から「18歳以上」に引き下げる公職選挙法の改正案が、全会一致で可決、成立しました。

この改正公職選挙法は、2016年夏の第24回参議院議員通常選挙から適用され、選挙権を有していなかった18歳・19歳の約240万人が投票に行くことになります。選挙権の拡大は、1945年に「25歳以上」から現行の「20歳以上」に引き下げられて以来70年ぶりの画期的なことです。

改正公職選挙法が成立した一方で、国政や地方の選挙において懸念されているのは低投票率です。

総務省によると、2014年12月に実施された第47回衆議院議員総選挙での投票率は、全体でも52.66%という戦後最低の水準まで下がったものの、特に20歳代は32.58%となっており、約7割が棄権しています。

つまり、公職選挙法改正で「18歳以上」に選挙権を拡大しても、18歳・19歳が投票に行かない可能性もあるわけです。

衆議院選挙投票率の推移
(総務省「衆議院議員総選挙における年代別投票率の推移」)

また、明るい選挙推進協会の調査(2013)によると、年代別の「政治関心度」では、「非常に関心をもっている」と「多少は関心をもっている」を合わせると、全体は83.1%に上るのに対し、20歳代は53.8%と30ポイントも低い状況です。棄権する理由については、20歳代では「選挙にあまり関心がなかったから」(23.2%)、「政党の政策や候補者の人物像など違いがよくわからなかったから」(21.3%)が主な理由として挙げられています。

「選挙にあまり関心がなかったから」や「政党の政策や候補者の人物像など違いがよくわからなかったから」という棄権理由は、投票される側の政治家にも問題があるかも知れません。

一方で、戦後日本において、有権者になる前から選挙に関心を持ち、政党の政策や候補者の人物像など違いを判断することを習得するための「政治教育」(主権者教育)が十分に整備されていなかったのではないか、とも考えられます。

学校で政治教育を敬遠してきた“ツケ”が回ってきた!?

教室②

政治教育は、改正教育基本法に「第14条(政治教育)1項:良識ある公民として必要な政治的教養は、教育上尊重されなければならない。2項: 法律に定める学校は、特定の政党を支持し、又はこれに反対するための政治教育その他政治的活動をしてはならない。」と規定されています。

同法が改正される前の「教育基本法」制定当時の条文解釈でも、この項目は「国民に政治的知識を与え、政治的批判力を養い、もって政治道徳の向上を目的として施される教育である」(中谷,2011)とされていました。

しかし、特に初等中等教育においては、政治に関する知識や制度の理解が中心の授業内容となっており、上記のような政治教育が十分に実施されてきたとは言えません。これは、教育と政治の関係が、大きく2つ起因しています。

一つは、「戦後、イデオロギー対立が深まる中で、教育の政治的中立が過度に強調され、政治教育の条文の第2項の方に重点が置かれてしまい」(中谷,2011)本来は「政治教育を促進するための中立性が、教育を非政治化するための中立性へと転化してしまった」(小玉,2007)ということ。

もう一つは、「文部科学省は、1968年の大学紛争を機に、中高への紛争の広がりを恐れて出した1968年通知『高等学校における政治的教養と政治的活動について』の立場から変化しておらず」(杉浦,2013)戦後日本において政治教育が学校現場から敬遠されてきたこと。

つまり、政治的中立性の担保は政治教育を実施する上で必要不可欠ではあるものの、教員が政治的中立性を意識し過ぎると政治教育を実施すること自体が難しくなるというジレンマを抱えているわけです。

国が主権者教育「副教材」を出したけれど…

副教材

このような背景のなかで、「18歳選挙権」の実現を受け、前述のように若者の投票率や政治関心度の向上を促すために、政治教育の充実が脚光を浴びつつあります。文部科学省は、新たに「主権者教育」を導入する方針を示し、2015年9月には高校生用副教材を公表しました。

また、同省による「1968年通知」も見直され、高校生の政治活動を一部緩和する新しい通知案が示されることにもなりました。

他方、上記の「副教材」を使う教員向けの「指導資料」には「教員の個人的な主義主張を避けて中立かつ公正な立場で指導するよう留意しなければならない」と明記されており、与党からは「政治的中立性を逸脱した教員に罰則を科す」等が盛り込まれた提言も出されています。

政治教育を充実させる方針は、戦後の政治教育の歴史を考えると「180度の転換」と言えますが、より厳格に政治的中立性に配慮するよう求められていることで、学校現場からは戸惑いの声も上がっています。

それでは、どのような主権者教育を行えばいいのでしょうか。
国内外の事例をご紹介しながら考えていきたいと思います。

参考文献

・教育法令研究会(1947)『教育基本法の解説』, 国立書院
・小玉重夫(2007)「(政治教育)第14条」浪本勝年・三上昭彦編『「改正」教育基本法を考える-逐条解説』, 北樹出版
・中谷美穂(2011)「投票参加の現状と課題-若者の投票率はなぜ低いか」,明治学院大学法学部政治学科編『初めての政治学-ポリティカルリテラシーを育てる』風行社
・財団法人明るい選挙推進協会(2013)「第46回衆議院議員総選挙全国意識調査 調査結果の概要」
・杉浦真理(2013)『シティズンシップ教育のすすめ 市民を育てる社会科・公民科授業論』, 法律文化社

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