「生徒の理解・知識が不十分」と指摘された模擬議会
前回ご紹介したように、私は、国に先駆けて主権者教育を導入した神奈川県で県立高校のアドバイザーを務め、「模擬議会」という授業プログラムの立案に参画しました。
「模擬議会」は、生徒の政治参加意識を育む効果がある一方で、実施結果を受けて開催された研究会等では、「政治経済」の教科を担当する教諭からも、生徒側と教員側の両面から見て、幾つかの課題が呈されました。
まず、生徒側の課題としては、「模擬議会で取り上げられている議案の社会的背景や基礎知識を十分に学習していないまま取り組んでも、表面的な理解と議論で終わってしまうのではないか」という点が挙げられます。
特に、「消費税の10%増税」のテーマに対しては、生徒が「なぜ今、増税論議が起きているのか」、「これまでの増税論議の流れはどうだったのか」「税と社会保障の仕組みはどのようになっているのか」など、生徒が十分に学習・理解した上で、「模擬議会」に取り組んでいたと言い難いかも知れません。
実際、クラスによっては、「消費税の10%増税」の賛成派だったはずの与党の「模擬議員」が、4時限目の「模擬本会議」において全員反対派に票を投じるなどの“予期せぬ事態”も起こりました。
私も毎回の授業には立ち会っていましたが、「社会保障の仕組みがよく分からない」という生徒の声を何度も耳にしており、そもそも授業の前段階である「社会的背景や基礎知識」の習得が不十分にもかかわらず、授業として「模擬議会」を実施した感は否めません。
この課題は、委員会や与野党に分かれて議論をした際に、知識が十分にある生徒とそうでない生徒によって、発言回数に違いが出たり、「社会保障政策」「エネルギー政策」などの難しいテーマであるが故に、テーマに対する当事者意識を持ちづらい生徒が出るなど、授業を受ける生徒のモチベーション維持においても課題があると言わざるを得ないでしょう。
やはり課題は「教員の政治的中立性」をどうするか?
課題は生徒側にあるだけではありません。教員側の課題としては、「政治的中立性をどう担保するのか」という点があります。
「模擬議会」で取り上げる議案は、「太陽光発電の推進」や「消費税の10%増税」のように、(国政および地方)議会の党派によって賛否が異なる政治的テーマが多く、議論においては「複数の考え方を提示する」など政治的中立性の担保は必要不可欠であり、実施する教員側は相当な配慮をしていました。
ただ、「模擬議会」の公開授業を見学したり、実践を聞いた他校の教員からは「(神奈川県から教育活動開発校に指定された)同校だからできるモデルではないか。」といった政治的中立性に敏感になる指摘も多かったのが印象に残っています。
以上の「模擬議会」に関する学校現場の課題をまとめると、
①国政や地方政治などを扱うため、生徒が「事前知識」を十分に持っていないと議論が深まらないことや授業において「政治的中立性」が求められること。
②「模擬議会」を通じて「政治」に関心を持つことはできても「意思決定のプロセス」に参加する実感までは持ちづらいこと。
③単なる「人気投票」や「政治ごっこ」になりがちであること。
この課題をどのように克服すればよいのでしょうか。次回からは私が取り組んでいる新たな主権者教育についてご紹介していきます。
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