主権者教育は「政治を自分事」に
2015年6月、改正公職選挙法が成立し、国政選挙としては2016年7月の参議院選挙から「18歳選挙権」が導入されました。
18歳選挙権にともない、若者の政治的リテラシーや政治参加意識を育む必要があるとして、注目されているのが「主権者教育」です。
選挙権年齢が18歳以上に引き下がる前から、若い世代の投票率は高齢世代と比べて低い水準にありました。
その要因は様々にありますが、高校までの学校教育の中で、政治や社会の「仕組み」について学ぶことはあっても、現実の政策課題や選挙の争点といった「中身」を学び、自分事として考え、討論する機会が少なかったのではないか、という指摘がされています。
それでは、主権者教育とは何でしょうか?
主権者教育の定義については、明確に一つに定められているわけではありません。
例えば、2012年3月、「主権者教育」を提示した総務省(常時啓発事業のあり方等研究会)では、「国や社会の問題を自分の問題として捉え、自ら考え、自ら判断し、行動していく主権者像」が掲げられました。
また、2016年3月、文部科学省の「主権者教育の推進に関する検討チーム」の最終まとめにおいて、主権者教育は「単に政治の仕組みについて必要な知識を習得させるにとどまらず、社会を生き抜く力や地域の課題解決を社会の構成員の一人として主体的に担うことができる力を身に付けさせること」とされています。
この他にも、関連する機関や団体等が様々な定義づけを行っていますが、いずれにも通底する大切なポイントがあります。
それは、
若者を選挙に行かせるためだけの教育ではありません。
低い投票率を上げるためだけに行う教育でもありません。
すなわち主権者教育とは、
様々な利害が複雑に絡み合う政治・社会課題について、できるだけ多くの合意を形成し、現在と未来の社会をつくるために、政治に参画(=意思決定プロセスに参加)することを目指して、主権者が「知り・考え・意見を持ち・論じ・決める」ことを学んでいく教育
ということなのです。
主権者教育の取り組みを探究して
主権者教育に最初に関心を持ったのは今から15年以上前、20歳の頃でした。
大学では「若者の政治参加」を推進するために、公開討論会や学生団体を企画しました。
卒業後もその情熱は薄れることはなく、日本では実践例が少なかった主権者教育について、10年以上にわたって、学校現場・シンクタンク・NPOなど様々な角度から取り組んできました。
これまでの私自身の歩みを振り返ると、主権者教育を日本全体に広げる活動や研究は、決して順調なものとは言えませんでした。
現実の政治を扱う授業は、国内の学校現場では敬遠される傾向にあること。
若者の政治参加が社会的な話題になるのは選挙の時ばかりで、大切だと分かっていても日常的に関心が集まるテーマではないこと。
政治への失望感が高まれば高まるほど、「どうせ政治に参加しても変わらないのだから、主権者教育なんかやる必要はない」という“ニヒリズム”が蔓延すること。
まさに、こうした“壁”に挑み続けてきた15年間であり、自分の無力を悔しく思うことも多々ありました。
それでも、このテーマは日本の民主主義を成熟させていくために不可欠であるという信念が、主権者教育に関する活動を支えてきました。
このウェブサイトでは、私が取り組んできた主権者教育の実践や研究も含め、国内外の教育事例や政策状況などを、できる限り分かりやすくお伝えしていきたいと思います。
まだ日本では誰も経験したことのない「18歳選挙権社会」をどう切り拓いていくのか。
選挙の時だけ盛り上がるのではなく、日常的な「主権者教育」とはどんなものなのか。
高校だけではなく小学校・中学校からの段階的な主権者教育にどう取り組むのか。
2022年の新学習指導要領から導入される高校必修科目「公共」とどう関わるのか。
皆さんと一緒に考え、探求することができれば幸いです。
西野偉彦(2016年3月執筆・2021年7月追記)
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