「生徒に学校への参画を促す」海外のユニークな主権者教育

校長を決める権限がある「学校会議」には生徒も参加

前回は、ドイツにおいて国としての主権者教育(政治教育)の政策をご紹介しましたが、今回は学校現場にスポットを当ててみます。

副代表理事を務めるNPO法人Rightsが、2014年9月に実施した「ドイツスタディツアー」で、私も共著者の報告書の中から2つの事例をご紹介します。

パンコー地区意見交換

まず、ドイツには「学校会議」という制度が設置されている学校があります。

これは、日本の学校における「職員会議」とは異なり、校長・教員・生徒・保護者・外部から構成されています。

私が訪問したベルリン市内の高校の一つである「Bröndby Oberschule」校には、13歳から19歳の約1,000名の生徒が通っています。

この学校に設置されている「学校会議」は、校長、教員4名、生徒4名、保護者4名、外部1名となっています。

「学校会議」を構成する教員と保護者のメンバーは、各グループ内の投票で選出される他、生徒代表4名は生徒総会で選ばれますが、必ずしも生徒会役員というわけではないそうです。

また、外部枠は行政職員・大学教授・経営者等の多様な人材を学校ごとに選ぶことが多いといいます。

「学校会議」は年間4~6回ほど実施され、取り上げられる議題の一つには、学校長を選ぶこともあるというのが驚きです。この学校の校長も、「学校会議」を経て選出されたそうです。

「学校会議」で議題に上がるのは、他にもこんなテーマがあります。

・学校での休憩時間をどう設定するのか。
・休憩中に生徒が校外に出ることを許すのか。
・学校ではどのような行事を行えばよいのか。
・コンピュータを導入するべきかどうか。

つまり、「学校会議」は、学校運営に関わる幅広いテーマについて議論し、決定することができる権限を有しているというわけです。

こうした「学校会議」の仕組みは、ナチス独裁政権への反省を踏まえ、学校も「独裁的な運営ではなく、民主主義社会に存在する」という方針を示すために作られたもので、ドイツならではの制度といえるでしょう。

ドイツには学校をより良くするために生徒が積極的に意見を述べる風潮があり、教員もそれを歓迎する文化が根付いていることが背景にあります。

校内の利害対立は「調停者制度」で生徒自ら解決する

学校現場において、もう一つのユニークな取り組みとして、「調停者」という制度があります。

これは、校内で生徒同士の問題が生じた場合、学校側が介入する前に、当事者である生徒間の仲裁に入る生徒を指します。

(2014年)ドイツの高校生たちと

ドイツには、実社会においても「調停者」という職業があり、裁判が起きる前の当事者同士の仲裁を行うことを目的としています。

もちろん、実社会で「調停者」になるためには、ソーシャルワーカーといった社会教育学の資格等が必要になります。

私が訪問した「Bröndby Oberschule」校では、「スクールソーシャルワーク(学校社会福祉の活動)」という仕事をしている教員が、「調停者」としての研修を受けた上で、生徒の「調停者」を育成するための教育を校内で行っています。

生徒が校内における「調停者」になるためには42時間の専門的な授業を受ける必要があり、実践的トレーニングも行われているそうです。

校内での「調停者制度」は、「生徒の問題を生徒自らが解決する仕組み」であり、問題が解決してからのアフターケアも生徒自身が担当します。

生徒の「調停者」だけでは解決が困難な場合は、教員の「調停者」に依頼することもできます。

この学校では、7年生から13年生まで、学年に関係なく20~30名の「調停者」がおり、実際の活動は2~3名のチームで行います。

「調停」する問題のレベルも様々で、例えば、生徒が喧嘩した際の仲裁という程度であれば解決は難しくありません。

しかし、クラス全体の問題が発生した場合の解決は複雑であり、「調停者」としての教育を受けた生徒であっても、問題解決の表現の方法を間違えないように行動する必要があるといいます。

「調停者」が校内で問題を起こした当事者から相談があった時の手順は、以下の流れです。

①「調停者」は、当事者たちと話し合い、それぞれの要望と事情を聞く。
②当事者たちの意見の調整を行う。
③当事者たちを入れた解決策を考え、対応する。
④当事者たちが納得すれば、両者に誓約書を記入させる。
⑤2週間後に当事者たちにヒアリングを行い、解決策の効果の有無を確認する。
⑥未解決なら、再び当事者に話を聞いて、解決するまで同じプロセスを繰り返す。

このように、丁寧な問題解決の過程を踏むことで、生徒は「学校内で起きる問題に自分たちで向き合い、当事者が納得して解決に導いていく経験」をしていきます。

まさに、ドイツでの学校現場での取り組みは、実社会での「様々な利害を調整し、合意を形成する問題解決」に繋がるものであり、そのためのトレーニングをすることができる主権者教育のモデルではないでしょうか。

参考文献

・小串聡彦、小林庸平、西野偉彦、特定非営利活動法人Rights(2015)「ドイツの子ども・若者参画のいま」

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